
この記事の著者:米田 ひかり (Yoneda Hikari)
神話トラベルプランナー / 神社検定1級保持者
古事記・日本書紀の現代語訳や、神話ゆかりの地ガイドとして活動中。延べ500人以上を出雲・伊勢へ案内。「神様は遠い存在ではなく、私たちと同じように悩み、恋し、傷ついた先輩」という視点で、教科書には載っていない人間臭い神話の旅を提案しています。
出雲大社へ行く計画を立てながらガイドブックを眺めていたとき、「大国主命は何度も死んでいる」「実はプレイボーイだった」という記述をちらっと見て、驚いたことはありませんか?
「えっ、縁結びの神様なのに死ぬの?」「浮気性ってどういうこと?」
そんな疑問が湧いてくると同時に、ただお参りして「いいご縁がありますように」と願うだけでは、なんだかもったいないような気がしてきませんか。
実は、大国主命(オオクニヌシノミコト)は、最初から偉大な神様だったわけではありません。
兄たちにいじめられ、理不尽に殺され、愛した妻には激しく嫉妬され……。
それでも周りの人々に助けられながら、泥臭く這い上がってきた、日本神話きっての「苦労人」なのです。
この記事では、キラキラした「縁結びの神様」の顔の裏にある、人間味あふれる「苦難と再生の物語」をご紹介します。
そして、その物語の舞台となった「知られざる聖地」へご案内します。
出雲大社だけでなく、彼が蘇った「赤猪岩神社(あかいいわじんじゃ)」や、恋に落ちた「湯の川温泉」を巡ることで、あなたの旅は単なる観光から、明日への活力をチャージする「人生の再起を誓う旅」へと変わるはずです。
さあ、神話のガイドブックを片手に、大国主命の足跡を辿る旅へ出かけましょう。
実は「いじめられっ子」だった?大国主命の壮絶な青春時代
「大国主命」という立派な名前を持つ彼ですが、若い頃の名前は「大穴牟遅神(オオナムチノカミ)」。
実は彼、多くの兄神たち(八十神・ヤソガミ)の荷物持ちをさせられる、いわゆる「パシリ」だったのです。
有名な「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」のお話も、実はこのいじめの最中に起きた出来事でした。
八十神たちは、隣国に住む美しい「ヤガミヒメ」にプロポーズするため、オオナムチに全ての荷物を持たせて出発しました。
道中、皮を剥がれて泣いているウサギに出会いますが、兄たちは「海水を浴びて風に当たれ」と嘘を教え、ウサギをさらに苦しめます。
遅れてやってきたオオナムチだけが、「真水で洗い、ガマの穂にくるまりなさい」と正しい治療法を教えました。
このエピソードは単なる動物愛護の話ではありません。
兄神たちがウサギを出し抜こうとした意地悪さと、オオナムチだけが持つ「真実を見抜く優しさ」が対比されているのです。
結果、元気になったウサギは予言します。
「ヤガミヒメは兄神たちではなく、あなたを選ぶでしょう」と。
その予言通り、ヤガミヒメはオオナムチを夫に選びました。
しかし、これが悲劇の始まりでした。
マドンナを奪われた兄たちの嫉妬は殺意へと変わり、オオナムチを亡き者にしようと画策し始めるのです。

スポンサーリンク
【衝撃】二度も殺された神様。赤猪岩神社に残る「死と再生」の伝説
ヤガミヒメと結ばれたオオナムチですが、幸せは長く続きませんでした。
兄神たちの殺意は、ついに実行に移されます。
しかも、一度ならず二度までも。
特に一度目の殺害方法は、あまりにも残酷で衝撃的です。
灼熱の大岩による圧死
兄神たちはオオナムチを伯耆(ほうき)の国(現在の鳥取県南部町)の手間山(てまやま)へ連れ出し、こう言いました。
「赤い猪を追い落とすから、下で捕まえろ」
しかし、彼らが落としたのは猪ではなく、火で真っ赤に焼いた巨大な岩でした。
オオナムチはそれを真正面から受け止め、全身を焼かれ、岩に押し潰されて死んでしまいました。
神様が死ぬなんて、信じられないかもしれません。
でも、これが古事記に記された真実です。
母の愛と貝の女神による蘇生手術
息子の無惨な姿を見て、母神(サシクニワカヒメ)は泣き崩れました。
そして天の神(カミムスビ)に生き返らせてほしいと懇願します。
その願いに応えて地上に遣わされたのが、二人の貝の女神、「キサガイヒメ(赤貝)」と「ウムギヒメ(蛤)」です。
キサガイヒメが貝殻で岩肌のように焼けただれたオオナムチの体を削り取り、ウムギヒメが母乳のような汁(薬)を塗りました。
するとどうでしょう。
オオナムチはみるみるうちに回復し、以前よりも麗しい男神として蘇ったのです。
スポンサーリンク
再起の聖地「赤猪岩神社」
この壮絶な「死と再生」の舞台となったのが、鳥取県南部町にある「赤猪岩神社(あかいいわじんじゃ)」です。
神社の境内には、なんと大国主命が抱いて落命したとされる「封印された大岩」が、今も地中に祀られています。
つまり、大国主命と赤猪岩神社は、兄神に殺され(焼死)、母神の愛で蘇った「再生の地」という深い関係で結ばれているのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 人生に行き詰まりを感じているなら、出雲大社へ行く前に、ぜひ赤猪岩神社へ立ち寄ってください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちですが、ここは単なる神話の舞台ではなく、「一度死んで蘇った」という強烈なエネルギーが満ちる「再起・復活」の聖地だからです。私自身、仕事で大きな失敗をして落ち込んでいた時にここを訪れ、「神様でさえこんな酷い目に遭って、それでも復活したんだ」と、涙が出るほど勇気をもらいました。この知見が、あなたの成功の助けになれば幸いです。
スサノオのスパルタ試練と、恐妻スセリビメとの「命がけの恋」
二度目の死(木の股に挟まれて圧死)からも母の助けで蘇ったオオナムチは、兄たちの執拗な追撃を逃れるため、「根の国(黄泉の国)」へ向かいます。
そこで待っていたのは、日本の神様の中でも最強の荒ぶる神、スサノオノミコトでした。
根の国でのスパルタ教育
スサノオは、娘の「スセリビメ」と一目で恋に落ちたオオナムチを気に入りません。
「お前のような軟弱な男に娘はやらん!」と言わんばかりに、次々と無理難題を吹っかけます。
- 蛇の室(むろ): 毒蛇がうようよいる部屋に寝かされる。
- ムカデと蜂の室: ムカデと蜂が飛び交う部屋に寝かされる。
- 鳴鏑(なりかぶら)の矢: 野原に矢を放ち、それを取ってこいと命じておいて、周りから火を放つ。
これらはまさに、死ぬか生きるかのスパルタ試練。
しかし、オオナムチはこれらを全てクリアします。
なぜなら、彼には最強のパートナーがいたからです。
スセリビメの内助の功
スサノオの娘、スセリビメは、父の試練からオオナムチを守るために奔走します。
蛇の室では「蛇の比礼(ひれ=スカーフ)」を、ムカデの室では「ムカデの比礼」を渡し、「これを振れば虫たちは退散します」と教えました。
野火の試練では、ネズミが現れて「内はほらほら、外はすぶすぶ(穴の内側は広いよ)」と隠れ場所を教えてくれましたが、これもスセリビメの加護があったからこそでしょう。
大国主命とスセリビメは、命を救ってくれた恩人であり、激しい嫉妬で尻に敷かれる正妻という、切っても切れない関係にあります。
スサノオという強大な試練(義父)に対し、スセリビメというパートナー(妻)の助けを得て乗り越える。
これは現代の私たちにも通じる、困難を乗り越えるための普遍的な構図かもしれません。
駆け落ちと「大国主」の誕生
最後は、スサノオが寝ている隙に、彼の髪を部屋の柱に結びつけ、宝物である「生太刀(いくたち)」「生弓矢(いくゆみや)」「天の詔琴(あめののりごと)」を奪い、スセリビメを背負って逃げ出します。
目を覚ましたスサノオは、髪が結ばれていてすぐに追いかけられません。
その間に二人は遠くへ。
逃げていく二人を見て、スサノオは黄泉比良坂(よもつひらさか)から大声でエールを送りました。
「その太刀と弓矢で兄神たちを追い払い、大国主(オオクニヌシ)となって、わが娘を正妻として立派な宮殿を建てて暮らせー!!」
こうしてオオナムチは、スサノオから正式に認められ、「大国主命」という名を授かったのです。
その後の泥沼?スセリビメの嫉妬
めでたしめでたし……と思いきや、ここからが「人間臭い」ところ。
正妻となったスセリビメは、非常に嫉妬深い女神でした。
プレイボーイの大国主が他の女性のところへ行こうとすると、激しく嫉妬します。
それにタジタジになった大国主が「つらいから大和へ逃げようかな」と歌うと、スセリビメは「あなたには私しかいないでしょ、仲良くしましょう」と酒を注いで引き止める
……そんな「神語(かむがたり)」というエピソードも残っています。
神様も夫婦喧嘩をし、嫉妬し、それでも寄り添って生きている。なんだか親近感が湧きませんか?
神話の舞台へ行こう。大国主命の足跡を辿る「聖地巡礼」モデルコース
大国主命の物語を知った今、出雲への旅はもう単なる観光ではありません。
彼の苦難と再生、そして愛の足跡を辿る「聖地巡礼」です。
ここでは、物語の流れに沿って巡るおすすめのモデルコースをご紹介します。

1. 赤猪岩神社(鳥取県南部町)
まずはここからスタート。
大国主命が蘇った場所で、日々の疲れや悩みをリセットし、「再生」を祈願しましょう。
封印された大岩の迫力は必見です。
2. 湯の川温泉(島根県出雲市)
赤猪岩神社から車で約1時間。
日本三美人の湯の一つです。
ここは、スセリビメの嫉妬を恐れて実家に帰る途中のヤガミヒメが立ち寄り、旅の疲れを癒やして「もっと美しくなった」という伝説の温泉。
恋に疲れた心と体を癒やすのにぴったりです。
3. 出雲大社(島根県出雲市)
旅のゴールはやはりここ。数々の試練を乗り越え、日本の国づくりを成し遂げた大国主命が鎮座しています。
物語を知った上で拝殿の前に立つと、ただ「縁結び」を願うだけでなく、「私もあなたのように、困難を乗り越えて幸せになります」と、力強く宣言したくなるはずです。
完璧じゃないから、愛おしい。大国主命に会いに行こう
いじめられ、殺され、嫉妬され……。
大国主命の人生は、決して順風満帆ではありませんでした。
でも、彼はそのたびに母や妻、周りの人々に助けられ、何度でも立ち上がりました。
私たちが彼に惹かれるのは、彼が「完璧な神様」だからではなく、傷つき悩みながらも前へ進む、その「人間臭い生き様」に自分自身を重ね合わせるからではないでしょうか。
あなたが今、仕事や人間関係で悩んでいたとしても、大丈夫。大国主命のように、必ずまた笑える日が来ます。
次の連休は、この神話のガイドブックを片手に、出雲へ出かけてみませんか?
再生の聖地と、泥臭くも愛おしい神様が、あなたを待っています。
参考文献
- 國學院大學 古事記学センター
- 鳥取県南部町観光協会 赤猪岩神社ガイド
- 島根県観光連盟「しまね観光ナビ」